有休取得による皆勤手当の不支給は違法か?

従業員の皆勤を促進するため、「皆勤手当」を支給しているA社での出来事です。

A社では、従業員がその月の所定勤務日のすべてを勤務した場合には、月額1万円の皆勤手当を支給する旨を賃金規程に定めていました。
そのため、年次有給休暇(以後「有休」といいます。)を取得して休んだ場合、所定勤務日のすべてを勤務していないことから、その月については、皆勤手当は不支給とする取扱いを行っていたようです。

すると、この取扱いに対し、ある日、有休で休んだ従業員Bから、「ネットで調べんですけど、有休を取得した者に対し、賃金の減額などの不利益な取扱いはしてはならないと労働基準法に定められているとありました。それなら、有休を取ったことで皆勤手当をカットする我が社の取扱いは労働基準法違反じゃないですか! そもそも有休の取得は労働者の権利なんですから出勤したものとみなすのが当然でしょ! だったら皆勤手当もすべて出勤した時と同様に満額きちんと払って下さい!」とクレームがありました。

A社の総務部長はあわてて労働基準法を調べました。すると、確かに第136条に『使用者は、第39条第1項から第4項までの規定による有給休暇を取得した労働者に対して、賃金の減額その他不利益な取扱いをしないようにしなければならない。』と定められていました。

これにより、A社は、従業員Bが言うように、カットした皆勤手当を支払わなければならないのでしょうか? 貴社で同様なことがあった場合、貴社は従業員からのクレームにきちんと対応(説明)することができますか?

今回のような事案の場合、結論から言えば皆勤手当の額が相対的に大きいものでない限り、有休取得による皆勤手当のカットは無効となるものではありません。

有休取得による皆勤手当の不支給については沼津交通事件が参考になります。この事件において最高裁は以下のように判示しています。(H5.6.25最高裁第二小法廷判決)

【最高裁判決要旨】

『労働基準法136条の規定は、それ自体としては使用者の努力義務を定めたものであって、労働者の有休の取得を理由とする不利益取扱いの私法上の効果を否定するまでの効力を有するものとは解されない。
したがって、有休取得を理由とする不利益取扱いは、その取扱いの趣旨、目的、労働者が失う経済的利益の程度、有休の取得に対する事実上の抑止力の強弱等諸般の事情を総合して、有休を取得する権利の行使を抑制し、ひいては同法が労働者に右権利を保障した趣旨を実質的に失わせるものと認められるものでない限り、公序に反して無効となるとすることはできないと解するのが相当である。

会社における有休を理由とする皆勤手当の減額・不支給の措置は、有休の取得を一般的に抑制する趣旨に出たものではなく、従業員が有休を取得したことにより控除される皆勤手当の額が相対的に大きいものではないことからして、この措置が従業員の有休の取得を事実上抑止する力は大きなものではなかったというべきである。

以上により、本件措置は、 ~(中略)~ 労働者の同法上の有休取得の権利を抑制し、ひいては同法が労働者に右権利を保障した趣旨を実質的に失わせるものとまでは認められないから、公序に反する無効なものとまではいえない。』

このように、最高裁は、有休取得による皆勤手当のカットについて有効と認める判断を下しました。

この最高裁の判例からも分かるように、労働基準法136条の規定は努力義務を定めたものであり、強制力がある定めでないことから、有休を取得があった月については、皆勤手当は支給しない旨を賃金規程に定めておけば、皆勤手当の不支給は無効(違法)とはならないのです。
ただし、判例でも示されているとおり、給与に占める皆勤手当の額が相対的に大きいものである場合には、有休の取得を抑制する結果となると見られ、無効と判断されることもあるでしょう。

では、皆勤手当の額がいくら位までなら大丈夫か、これについては明確な基準は示されていません。
ただ、私の個人的主観としては、月額1万円以下程度の皆勤手当であれば、大きな額とは認定されないでしょうから、有休を取得した月についての皆勤手当不支給は問題(無効)にならないと思います。

ここまで知っておけば、従業員からのクレームにも対応・説明できますね。参考にして下さい。


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