「労使トラブルは労働基準法で解決する」の誤解

貴社では労使トラブルが起きた際、どのように解決されていますか?
「労働基準法にこう書いてあるから。」ということで、労働基準法で解決しようとしていませんか?
しかし、本当に労使トラブルが労働基準法で解決できていますか?

実は、労働基準法では労使トラブルは解決できません。というのも、労働基準法は刑法などと同様に刑罰法規だからです。ご存知のとおり、労働基準法は、罰金や懲役などの刑事罰を背景として、事業主に対し様々な義務の履行を求めています。

労働基準法に抵触した事業主の行為を有罪として刑事罰を課すか課さないかは、刑事事件としての処理であり、たとえ事業主が刑事罰を課されたことをもって、不当に侵害されて生じた従業員の損害が回復されるものではありませんよね? つまり、当事者間の一方(たとえば会社)の利益と一方(たとえば従業員)の利益がぶつかったり、一方(たとえば従業員)の権利が侵害されて損害が生じた場合、これは「不法行為」や「債務不履行」という問題が生じたということなのです。
この問題をどのように利害調整して解決を図るか、はたまた双方または一方に生じた損害をどの程度賠償するか等については、当事者同士が話し合って(話し合っても合意に至らない場合は最終的には裁判所で民事紛争として)解決するしかありません。

裁判所でもない行政機関(労働基準監督署など)が、当事者の一方(従業員)の味方になって、もう一方の当事者(会社)に対し、「相手方(従業員)に〇〇万円支払ってやれ!」などと命じる権限はないのです。よって、表向きは労働基準法で解決できるように見える会社と従業員の間に生じた労使トラブルは、実は私人間(国民vs国民)の関係を規定した“民法”や“労働契約法”でしか解決できないということです。

そこで、私人間(国民vs国民)の基本原則はどうなっているかと言えば、民法第1条に次のような内容が定められています。(民法第1条第1項~第3項)
「私権は、公共の福祉に適合しなければならず、権利の行使および義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければなりません。権利の濫用は許しません。」
“私権”だの“公共の福祉”だの“信義”だのと、これではちょっと分かりにくいですよね。これを分かりやすく言いかえれば、『当事者(国民同士)の権利と権利がぶつかったら、みんなが幸せになれるような(最大多数の最大幸福の)解決を図りますよ。当事者が権利の行使や義務の履行をする際は、当事者間の約束に従って誠実に行われなければならず、いくら自分の権利といえどもそれを濫用するような行為は認めませんよ。』ということになります。つまり、労使トラブルという私人間(民事上)の紛争が生じた場合も、この基本原則にもとづいて解決することになるのであって、刑罰法規である労働基準法で解決できるものではないのです。

次のコラムでは、労使トラブルを前述の私人間の基本原則にあてはめて考えた場合、どのように解決されるのかについて、よくある労使トラブルの事例をもとに解説してみたいと思います。お楽しみに♪

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